★検証★993型ポルシェの秘密 後編

最終更新日2005/10/23
993型のボディはX型のサブフレームをフロアに備えており、サイドシル(ドアの下)に図太いフレームを使用している(乗降時に仕切りが高いと感じるのはこの為)ので、ねじれに対する剛性が非常に高く、その基本骨格の剛性の高さがサスペンションに本来の働きをさせ、コーナーリング時や高速域でのすばらしい安定感を生んでいるのです。そのクオリティは20万キロを超えても変わらぬ剛性感を持つほどの代物です。さらにその恩恵はポルシェを知る人にとってはもうひとつの快感を与えてくれます。それは“ドア”です。この時代までのドイツ車には独特の神話がありました、“ドアを閉めれば車がわかる”。コーナーリング時に起こる「ねじれ」のシワ寄せがくるのは主にボディの継ぎ目などです。開閉機構であるドアは剛性の高さを判断する一番の場所です。993までのポルシェは、“バチン!”といういかにも機械的な開閉音を有しています。もしもこのドアの閉まりが悪ければ、なにかしらのアクシデントを経験している車だと言えます。中古車を見るときは何度も開閉をしてチェックしてみてください。
今も熱狂的なファンを持つメルセデスのW124型Eクラスや190Eなども、オーバークオリティと言われるほどの高ボディ剛性から生まれる重厚さと最上の乗り心地で不動の人気を手にしました。では剛性が高ければ“いい車”なのか?ここで注意していただきたいのは、“高剛性”とは決して“硬いボディ”のことではありません。本来、力(コーナーリングフォース・振動・慣性力)というものは、必ず自動車のどこかへ伝わり、そして吸収されます。サスペンションやスタビライザー、ブッシュなどで吸収しきれなかった力は、モノコックやボディパネルなどに及びます。これがもしも“硬いだけ”のモノコックやボディであれば、吸収するどころかそのまま次の連結パーツに伝えてしまいます。こうなると恐らくガラスは全て割れてしまい、さらに乗員は耐え難い苦痛な振動を受けることになります。重要な事は、“柔”と“剛”を如何にバランスさせるかと言う事なのです。つまりこの第二のサスペンションとも言えるボディの造りしだいで大方の車の良し悪しというものが判断できるのです。
どんな業界にも存在する「名機」と呼ばれる機械に共通して言える事は、まるで魂が宿っているかのような存在感を放っている点です。それは決して派手なものではなく、目に見えない部分に手間と贅沢な材料を惜しみなく投入することにより生まれる内面から放出されるものなのです。言葉では語り尽くせない満足を提供してくれる車はそう多く存在するわけではありません。少なくともこの当時、ドイツ車特有の“カッチリ”とした趣は、「本当にイイ車だなぁ」と言わしめるほどの完成度を有しています。残念ながらこの“乗り味”は、すべてとは言いませんが現在のドイツ車には微塵も感じられません。今でこそこれらが古臭い車にしか写らない方も多いかと思いますが、何十年かけても日本車が彼らに追いつけなかった理由がここにあります。諸元表と睨めっこしていてもわからないのは当然です。ドライビング ・プレジャーというのは決してスペックが生み出すものでは無いのです。是非とも一度はこのジャーマンスピリット溢れる名車たちに触れていただきたいものです。